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青山ブックセンター本店の書店員11人が選ぶ今年の1冊/Aoyama Book Column #7

こんにちは。青山ブックセンター本店の神園です。

2024年も残すところ、あと少しです。皆様いかがお過ごしでしょうか。
先日当店では、2024年の年間ランキングを発表しました!(2023年12月1日〜2024年11月30日集計)
今年もABCらしい、他書店では見られないようなランキングになっています。

総合ランキング トップ10

さて、今回は、そんな青山ブックセンター本店の書店員11人が選ぶ「今年の1冊」を紹介したいと思います。

日々、青山ブックセンター本店の棚を作っているスタッフが今年何を読んだのか。年末年始の休暇に読む本の参考にもなれば嬉しいです!
(※選書は2024年刊行の書籍に限りません。)


佐内正史さん『写真がいってかえってきた』(対照)/店長・山下選

前作『静岡詩』から1年とちょっと、佐内正史さんの新作写真集。巻末には保坂和志さんによるエッセイ「シロちゃんと見た風景」を収録。(コデックス装/170mm×128mm/320ページ)

保坂さんのエッセイとともに、写真の束ではなく「本」になったという今作。写真1枚1枚を噛み締めた先に「本」が立ち上がる。これから何度もページをめくりたい。(山下)

頭木弘樹さん『口の立つやつが勝つってことでいいのか』(青土社)/ 渡慶次選

『絶望名人カフカの人生論』で知られる文学紹介者による、初のエッセイ集。思いをうまく言葉にできないほうが、当然なのだ。

キャラしか立ってない自分は、もっとスープみたいな会話をすればいいんだと手を差し伸べてもらった。(渡慶次)

ディーリア・オーエンズ 友廣純さん訳『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)/児童書・旅行書担当 横尾選

みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交差するとき、物語は予想だにしない結末へ。2021年本屋大賞翻訳小説部門1位。

様々な困難に立ち向かいながらも、たった1人で孤独にそして自由に暮らす少女カイア。彼女を取り巻く人間関係と動物学者らしい緻密な自然描写で書かれた本作は、ミステリーや恋愛要素も盛り込み500ページを超える長編だが、グイグイ引き込まれあっという間に読み終えた。
69歳にして初めて書いた小説とは思えぬ面白さ。タイトルとカバーイラストも魅力的。(横尾)

松田青子さん『お砂糖ひとさじで』(PHP研究所)/文芸・実用書担当 青木選

日々の小さなことや身の回りにこそ、自分があらわれる。多くの具体的な固有名詞とともに2020年代を写し出す、軽やかなエッセイ。

このエッセイは松田さんと同じ目線に立ったり、感じたり、見ることが少しできます。その少しの部分に救われて、また日常に戻ろうという気持ちになります。(青木)

藤井基二さん『頁をめくる音で息をする』(本の雑誌社)/コミック・雑誌担当 本田選

今年あらためて読みました。毎日ひどい日々ですがこの「内用薬」に元気もらいました。(本田)

ソフィ・カル『限局性激痛』(平凡社)/写真・ファッション担当 高橋選

フランスを代表する現代アーティスト、 ソフィ・カルの痛みと治癒の物語、待望の邦訳。

今はなき原美術館で観てからずっと忘れられず、当時買わず後悔していた展示図録の邦訳版。待ちに待った刊行で嬉しい気持ちもあったが、刊行されるのを知らずに直近で原書の古書を買ったばかりで、悲しみも感じた色々と思い入れのある1冊。(高橋)

島田潤一郎さん『長い読書』(みすず書房)/文庫・ビジネス書担当 神園選

吉祥寺のひとり出版社「夏葉社」を創業した著者が、これまでの読書体験、その忘れられない時間をありのままに語る、無二の随筆集。

エッセイには色んな味わいがある。ファストフードのように分かりやすい味だったり、昔ながらの定食屋の温かな味だったり。島田さんのエッセイは珈琲の味がする。苦みがあって香り豊かな大人の味わいだ。

吉田亮人さん『しゃにむに写真家』(亜紀書房)/新書担当 山本選

「働くとは・生きるとは」について考える、注目の写真家、渾身のノンフィクション!

旅先で一気に読んでしまいました。「どこかしらに不安がある時にも読めて、読むと自分の手や足を動かそうという気持ちになる本」のリストが何となく頭の中にあるのですが、そのリストに仲間入りしたような気がします。

「働く」ということがわからなくなった時に読み返したい一冊。(山本)

毛内拡さん『「頭がいい」とはどういうことか』(筑摩書房)/語学書担当 高橋選

思い通りに体を動かす、アートを作り出す、人の気持ちがわかるなど、AI時代の「真の頭の良さ」を考える。カギは「脳の持久力」!

「地頭がいい人」と誰かを褒めることがある一方で、「お勉強だけできる人」と揶揄する例もある。どのような基準で人は「頭がいい」と判断しているのか。そういった自分の疑問に脳科学的な知見からヒントを与えてくれる本でした。
この本を通じて、能力や性格などを多面的に捉えられるようになった気がします。(高橋)

僕のマリさん『記憶を食む』(カンゼン)/美術本担当 梅津選

大切な記憶も、ちょっとした記憶も、食むように紡いでいく。気鋭の文筆家・僕のマリによるはじめての食エッセイ

食べ物と結びついた記憶のエッセイ集です。 
もくじのページを開くとおいしそうな食べ物の文字が並んでいてうっとりしてしまいます。 
嫌なことを思い出して苦しくなることもあるけれど、記憶が増えていくこと、年を重ねることは生きやすくなることでもあるのかなあと感じました。 
どのお話を読んでも、心の温度がボワッと上がった気がします。「明日のパン」とそれに続くあとがきがわたしは特に好きです。(梅津)

クラリッセ・リスペクトル 福嶋伸洋さん 武田千香さん編訳『ソフィアの災難』(河出書房新社)/平田選

今、すべてが生まれ変わりつつあった。若者の目覚め、主婦におとずれた啓示、少女の運命、出口を求める老婆―。日本翻訳大賞受賞『星の時』の著者でありウルフ、カフカ、ジョイスらと並ぶ20世紀の巨匠、死後約40年を経て世界に衝撃を与えた短篇群。

ブラジルの作家の日本オリジナル短編集。
暗闇と光、愛と残酷さ。リスペクトルは相反する二つのものを隣同士に並べる。
そうして紡がれた短い物語はとてつもない広がりを含んでいる。
独特の手触りとどうしようもなく正直な登場人物たちをじっくり味わってほしい一冊です。(平田)