星占いを哲学的に考えるエッセイ/Aoyama Book Column #5
これは普通の星占いの本ではない…
「12星座シリーズ」で人気のライター、石井ゆかりさんが星占いを哲学的に考えるエッセイ『星占い的思考』(講談社)が11月に文庫化しました。
いきなりですが、このエッセイ、いわゆる普通の星占いの本とは何か違うんです…。
それは、初っ端から現代SF界を代表するテッド・チャンの小説『息吹』の引用で始まる導入部分を読めば、もう分かるはず。
以降も、ヘミングウェイやアレクサンドル・デュマ、シェイクスピア、スーザン・ソンタグ、小林秀雄と岡潔、和辻哲郎など、古今東西の文学・哲学作品が多く取り上げられるのですが…(本当に星占いの本なのか⁉︎)
この本はそれらの作品を手がかりに、12星座の世界をそれぞれ語り直していく、とても実験的でユニークな星占いエッセイなのです。
決して難解ではなく、星占いを信じる人にも信じない人にもお薦めしたい一冊です。
星占いはアリかナシで言ったらナシ?
そしておもしろいのが、導入部分で、石井さんがこのように断言していることです。
「こんな星占いのエッセイ、アリなの?」と驚きましたが、このようにフラットな目線で星占いを捉える石井さんの考察にはとても説得力があり、読者も同じようにフラットな目線で12星座について考えをめぐらすことができます。
じゃあ、なぜ星占いはあるの?
では、社会的に「ナシ」であるのに、なぜ星占いはこの社会に存在するのでしょうか?それもずっと昔から。
石井さんは、この本の中で、一切の合理的・理性的・科学的根拠がなく、不道徳である星占いは、それゆえに倫理や道徳といった世界観からのアジール(避難所)として存在するのだと言います。
それは、このエッセイで多く引用される文学が存在する理由とも同じかもしれません。
導入では、占いと文学は「象徴の世界」の表象という共通点を持つのだと述べられています。
ただ、文学と占いは全くもって異なるものでもあります。その違いを一つ挙げるとすれば、それは読み手の対象が明確かどうかではないでしょうか。
文学は読み手の対象を明確には限定せずに描かれますが、星占いは読み手の対象が初めから12星座それぞれに区分けされます。
文学は、誰かの人生の物語であり、そこに読者は何らかの象徴と運命を見出します。
一方で星占いはどうでしょうか。
はじめに引用されたテッド・チャンの小説の名前を借りて言ってみれば、星占いとはあなたの人生の物語なのです。
その物語を信じるか信じないかは、あなた次第というのが星占いのいいところ。
いずれにせよ、『星占い的思考』を手に取って、あなたの人生の象徴の世界を一度覗いてみるのはいかがでしょうか。
11月26日には、続編の『星占い的時間』が刊行されました。
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