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#3 渡邉康太郎さんとドミニク・チェンさんが語る「絵本」「美術」「漫画」の6冊(「本屋の歩き方vol.1」より)

青山ブックセンターにまつわるゲストが、書店ならではの魅力的な空間を紹介しながら、本の魅力について語る「本屋の歩き方」。

このnote版「本屋の歩き方vol.1」は、Youtubeで公開した動画を文字起こし・編集をし、書籍の紹介に関する部分を一部抜粋したものになります。

今回紹介するのは「絵本」「美術」「漫画」の6冊

第3回は「翻訳」「海外小説」をテーマに、ドミニク・チェン さん・渡邉康太郎さんが取り上げた6冊の本を紹介します。

『目に見えない微生物の世界:あらゆるところにたくさんいる!』
『アンジュールーある犬の物語』
『ユーラシアを探して:ヨーゼフ・ボイスとナムジュン・パイク』
『短編画廊 絵から生まれた17の物語』
『A子さんの恋人 6巻』
『棒がいっぽん』

第1回「特設棚」
第2回「翻訳」「海外小説」

出演者(敬称略)

ドミニク・チェン:研究者
渡邉 康太郎:Takram コンテクストデザイナー / 慶應SFC特別招聘教授
山下 優:青山ブックセンター本店 店長

『目に見えない微生物の世界:あらゆるところにたくさんいる!』

ドミニク:三冊目は絵本ですね。僕が最近ゲットした…。

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渡邉:良い感じだな、絵本売り場。

ドミニク:あれ?ああ、びっくりした。売れちゃったかと思った。もう1冊しかない。『あらゆる所にたくさんいる目に見えない微生物の世界』。これは著者がですね…。

渡邉:ちょっと後ろで写り込んでいる人がいますけれど、ピースで。

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ドミニク:あれ、知ってます(笑)?
渡邉:あの人ね、たぶん掃除夫の僕に掃除を任せている人ですね、例の。

ドミニク:掃除夫の雇用主。お世話になってます。ケン・リュウをストツーと言った人ですか。朝吹真理子さんです。あとでまたお出まし願います〜。

渡邉:そうですね、きっと登場してくれるはずです。

ドミニク:これはフランス語で書かれた、フランス国立自然史博物館監修で、エレーヌ・ラッジカク、ダミアン・ラヴェルダン(河出書房新書 2018)たちが書いた本を日本語訳しているんだけれども、子ども向けの本なのだけれども結構容赦なく専門用語が散りばめられている。

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折りたたみ式のページをめくると、微生物がいっぱい!それぞれの微生物の形や縮尺が正確に描かれ、生物学的知識も楽しく学べます。原書は、フランス国立自然史博物館監修、さらに日本語版は、日本微生物生態学会に監修していただきました。(河出書房新社内容紹介より)

渡邉:これ、チェン家では日本語で読んでいるんですか?

ドミニク:僕、これ日本語で買っちゃったんで。フランス語の本だって知らなかったので、日本語で買って、あフランス語なんだって思ったんだけど。いきなりこんな感じで。

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渡邉:いい、これ。シルエットで比べていく。

ドミニク:番号も振ってあるんだけれども。うちの子は8歳なんだけれど、ちょっと難しいくらい。だから小学校高学年、中学年くらいだとちょうどいいのかなと。

渡邉:見開きごとに異なる倍率が書いてあって。

ドミニク:ここは80倍ね。もっとすごいことになっていくんじゃないかな、あ、でも50倍、100倍くらいかな。でもだいたい50から100くらい。

渡邉:今、人間の洋服の上とか、ベッドの上の微生物。

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ドミニク:こんなことになっています。

渡邉:だいぶ怖い。人口密度じゃないけれど、微生物密度はこんなになるんですか。怖くないですか、これ。

ドミニク:そう、結構怖い。うちの娘が最初見てた時に「ぎゃー!」って言っていたよ。

渡邉:そうでしょう、寝れなくなるでしょう。これ菌かしら、きっと菌ですね。

ドミニク:これは多分そうですよね。微小な菌類って書いてありますよね。

渡邉:あらやだ。
ドミニク:あらやだ。

ドミニク:皮膚だとか、森の地面のところとか。

渡邉:でもこれ一緒に読むにしても相当、時間かかりそうですね。

ドミニク:そうそう。だから、いちいちこの専門用語をね、解説していると、なかなか時間が足りないけれど。でも、「ちゃんとした科学者が書いている、監修しているので読み応えがある。

「微生物、気持ち悪い」とか「雑菌殺そう」とかじゃなくて、雑菌と共生していくためのイマジネーションとかね。そのための基礎リテラシーを身につけるっていう意味で「気持ち悪いものではなくて、面白いものという風に変換をしてくれるんじゃなかろうか」と僕は、勝手に期待して娘と一緒に読もうとしてるっていう本です。これ実際、微生物学者の知人から1ヶ月前にお薦めされてゲットしました。

渡邉:素敵。
ドミニク:これはすごく買ってよかったなと思う本なので。
渡邉:いい本ですね。
ドミニク:いい本。河出書房新社さんからです。

渡邉:これちゃんと置いてあったんですね、ABC。
ドミニク:最後の1冊でしたね。

『アンジュールーある犬の物語』

ドミニク:絵本もね、語り出すと。

渡邉:色々ありますよ、僕これ大好きで。これガブリエル・バンサン。バンサンコーナー、ここにあるけれど、僕結構好きなのたくさんあります。『砂漠にて』っていうのとか、シャンソンを訳しているやつとかあるんですよね。確か『老夫婦』っていう。

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渡邉:フランスのとあるシャンソンを題材に、歌詞1行1行にバンサンが老夫婦の生活の絵を寄せるっていう。それが美しいのだけれども。個人的に好きなのは、これで。

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絵本の原点感動の一冊 (ブックローン出版内容紹介より)

ドミニク:これ、どこが好きなんですか?

渡邉:文字がひとつも出てこないんですよ。物語は、ある犬の話です。突然、犬が自動車から捨てられてしまう。必死に追いかけるが、いくら行っても……みたいな悲しいところから始まるんです。追いかけて行っていたら道に迷って。寂しいじゃないですか。車道に飛び出しちゃって、うっかり交通事故を巻き起こしちゃったりもする。どんどん展開していくんですけれど。

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渡邉:言葉なしに、犬の後ろ姿とか、その姿勢から犬が物語る「感情」みたいなものが語られるんです。

たまに、デザイナー向けのワークショップをTakramが主催する時に、これを複数人で一緒に読んでもらうことがあります。

大人6人で、一切言葉を交わさずにゆっくりページをめくりながら読んでもらう。たまに実験して面白いのは「おそらく最初から最後まで見終わると、皆さんの解釈が全く異なるはずです」と前置きしてワークショップをやると、会話がブワーっと盛り上がる。一方あまり時間のない時に「筋は分かると思うんで、そんなに感想は違わないはずです」って事前に言うと、突然みんな議論しなくなる。

「こういう話だったよね」という感じで、ディスカッションが止まっちゃうんですよ。文字がないことが、その後言葉を尽くして意見を交わすことの起爆剤になるんですけど、チームのインターナショナルコミュニケーションについて考えるきっかけに、これを使ったりしてますね。

ドミニク:原題は『ある日、ある犬』ですね。

渡邉:いやちょっと、絵本も沼ですね。

『ユーラシアを探して:ヨーゼフ・ボイスとナムジュン・パイク』

ドミニク:美術本もね、これは始めたら止まらないので。

渡邉:止まらんですなあ。この辺にある『美術手帖』のバックナンバーとかも。

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ドミニク:『美術手帖』のバックナンバー結構ありますね。
山下:そうですね。いま割と豊富に入れてるので。
ドミニク:そうなんだ、知らなかった。

渡邉:この「ボイス」も気になってたんですよ。

ドミニク:『ボイス + パイク』という本もあそこにありましたよね。
渡邉:あった、あった。この辺でしょ。

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ドミニク:これこれ。渡辺真也さん『ユーラシアを探して:ヨーゼフ・ボイスとナムジュン・パイク』三元社さん。

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地球の陸地の40%を占める大陸、ユーラシア(Eurasia)。この一つの大地の西に位置するヨーロッパ(Euro)、東に位置するアジア(Asia)には共通する文化的ルーツがあることに目を向け、東西に分裂した世界の再構築を目指したのが、ヨーゼフ・ボイスとナムジュン・パイクによるプロジェクト《ユーラシア》である。それぞれの生い立ちに深く結びつきながら、歴史や哲学に対する深い洞察をもって構想されたこの抽象的作品を正確に理解し、二人が人類に残したビジョンを明らかにする。(三元社内容紹介より)

渡邉:これも気になりますね。

ドミニク:これも新しいですね。出たばっかりで。康太郎さんの本でも、ボイスが結構大事な部分で出てきますよね。

渡邉:ボイスってフルクサスとかともやりとりがありましたっけ。

ドミニク:してましたよね。だから、この二人は交差してたはず。気になる!

『短編画廊 絵から生まれた17の物語』

渡邉:ちなみに、この隣にある本(『短編画廊:絵から生まれた17の物語』)も、すごく好きで。まだ全然読んでないんですけど。エドワードホッパーの17枚の絵を題材に、小説家が一人ずつ物語を与えるっていう企画の本です。

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すべての絵には、物語がある。名だたる作家17人による文豪ギャラリー 国を代表する名画家、エドワード・ホッパー(1882-1967) 奇才エドワード・ホッパーに捧げる短編集。作家ローレンス・ブロックは、ホッパーの作品は「絵の中に物語があること、その物語は語られるのを待っていること」を強く示唆していると語り、ホッパーの絵から物語を紡ぐこの短編集を考えついた。(ハーパーコリンズ・ジャパン内容紹介より)

ドミニク:別々の作家が書いてくんだ。

渡邉:そう。ちなみにまだ読んでない。

ドミニク:けど好き(笑)?
渡邉:けど好き。コンセプトが好き。
ドミニク:コンセプトで好き確定っていう。それだけでお腹いっぱい。渡邉:絵そのものが一つの物語。

『A子さんの恋人 6巻』

渡邉:僕が紹介したかったやつ、これです。『A子さんの恋人 6巻』(近藤聡乃、KADOKAWA)が出たよって、やつですね。近藤聡乃さん、これ最高なんですよ。

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大人げない大人たちの迷走恋愛模様、いよいよ最終幕。勢いで日本まで来てしまったA君だったが、えいこと会って遂にひとつの結論に辿りつく。えいこ、そして周囲の面々を驚かせたその答えとは?A君の来日と帰国を中心に綴られるドラマチックな第6巻。もちろん、大人気の悪友コンビ・けいことゆうこが暗躍するエピソードもたっぷり収録。(KADOKAWA内容紹介より)

ドミニク:僕全然知らないんですけど、読もう。

渡邉:ちなみに僕、1~5巻をしっかり読み直してから、6巻を読もうと思ってて、まだ読んでないです。まだ読んでないけど、おすすめしたい。

ドミニク:読んでないけどおすすめしたい本が多いですね。

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渡邉:これ、ちょっと簡単に内容をご紹介すると、主人公はA子さんっていうんですけど、アルファベットのAなのは、登場人物がみんなアルファベットなんですよ。例えば、U子とか、K子とか。
ドミニク:A太郎とか。

渡邉:大抵のキャラクターが、漢字でも書けるけど、アルファベットでも書ける名前なんですよ。たぶん、これは匿名という意味ではなくて「自分が他人に興味を持てるか」ということだと思うんですよね。

ドミニク:あ、そういう主題とも関わってるタイトルなんだ。

渡邉:多分そういうことだと僕は読んでいて。相手の人物というのを、ちゃんと個人として捉えているのか、類型として捉えているのか。

ドミニク:固有名の問題ですね。

渡邉:そう。「相手のことをちゃんと見たい」って思っているかが疑わしい主人公なんですよ。

ドミニク:なるほど、面白い。

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渡邉:漫画としても、めちゃくちゃ素敵だなと思うのは、すごく大事な恋人同士の会話を「料理を作りながら交わす」みたいなシーンが、たしかあったような気がする。うろ覚えだけど。

普通だったら「向かい合って話す」とか「ベッドの中で話す」とかで描写しがちなものを「まったく目を合わせずに料理する人」と「待ってる人」みたいな情景にする。描かれてるのは手元だけとかで、大事な会話がどんどん進んでいくんですよ。

この描写の仕方は、すごいリアリティの重さがあるなって思っています。あと、2巻で登場する素敵なエピソードがあるんですけど、たしかバレンタインデーのチョコの授受を、登場人物4人の異なる視点から何回も語り直す。

ドミニク:視点を切り替えて。

渡邉:芥川龍之介『藪の中』みたいな。それで、謎が解けていったり、深まったりっていう。だから結構チャレンジング。近藤聡乃さんご自身はですね、ニューヨーク在住の現代アーティストでいらして、アニメーション作品とかを作ってるんだけど、漫画も描かれています。

ドミニク:あんまり、いそうでいないですよね。そういう両方の肩書き持ってる人ってね。

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渡邉:いわばプロパーの漫画家っていうよりは、どちらかいうとアーティスト活動の方が主軸だと思います。でも、漫画のストーリーテリングとか描写のテクニックに、個人的にはすごく惚れ込んでいて。

ドミニク:読みたくなった。というのも絵柄が、僕は高野文子さんが大好きで。宇宙人が「醤油差しがどこに行ったか」ということをリサーチしに、地球にやってくるという物語が好きです。

『棒がいっぽん』

渡邉:なにそれ、最高。それ、あるかな?

ドミニク:『棒がいっぽん』(高野文子、マガジンハウス)っていう短編集の。

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「昭和43年6月6日のお昼ごはん、覚えていますか?」
--お待ちどおさま!高野文子最新作品集ができました。「棒がいっぽん-」それは、物語が始まる合言葉。『COMICアレ!』に掲載された最新作「奥村さんのお茄子」。をはじめ、6作品を収録。独特の感覚で身近な生活を描く。(マガジンハウス内容紹介より)

渡邉:それ買います、僕。この人ってあの人?『ドミトリーともきんす』の?

ドミニク:ですです。これは「美しき町」っていう超名作が入ってるんですけど、さっき言ってたのは最後の「奥村さんのお茄子」。これはSFとしてもすごくって。醤油差しが、実は宇宙人なんですよ。

「その人がどこに何時何分どこにいたか」っていうのが、時間を遡るビデオデッキがあって、それでいろんな人の視点を憑依して「そこにいた/いなかった」みたいなことを探り当ててくっていう、そういう不思議な漫画なんだけど。その視点が切り替わるとか、固有名と一般名詞の緊張関係とか、読んでないけど繋がる気がした。

渡邉:繋がるかも。あと、絵柄もね。ちょっと僕、買って良いですか。お買い上げ。
ドミニク:2冊目。
渡邉:うむ。どんどん増えていく、これが。
ドミニク:ちょっと漫画もね、終わらないですね。

(第4回に続く)

最終回予告(7/30(木)公開予定)

次回は最終回。「哲学」をテーマに、ドミニク・チェン さん・渡邉康太郎さんが取り上げた5冊を紹介する予定です。

『プルーストとイカ』
『デジタルで読む脳 × 紙の本で読む脳』
『暇と退屈の倫理学』
『中動態の世界』
『アメリカ紀行』

ドミニク・チェン さん・渡邉康太郎さんによるnote版「本屋の歩き方 vol.1」は、全4回にかけて、毎週木曜日夕方に計21冊を紹介していく予定です。次回もぜひご覧ください。

第1回:特設棚
第2回:翻訳・海外小説
第3回(今回):絵本・美術・漫画
第4回:哲学